歯磨きすると歯肉から血の出る人へ


左の写真は、歯肉から出血していない健康な人の歯肉の前歯です。この健康な歯肉の上顎左右中切歯2本だけを当人の了解を得て、歯磨きしないでいたらどうなるのか、テストしてみました。

80日後どうなったでしょうか。右の写真のように、歯肉炎をおこして歯肉辺縁から出血が見られるようになりました。原因は長期間、歯にプラークが付着していたためです。
他のすべての歯は完璧に歯磨きしていたので、プラークの沈着はなく、歯肉からの出血はどの歯の歯肉からもしませんでした。歯肉出血の確認した時点ですぐに上顎左右中切歯の歯磨き(プラークコントロール)を開始しましたら、3日後には2本の歯は出血しなくなり、健康な歯肉に戻りました。この際歯磨きペーストは使用していません。この結果の意味は、プラークコントロールが不十分な歯は歯肉炎を起こし歯肉出血するという事です。
十分にプラークコントロールができていると、歯肉炎は起きないという事です。歯ブラシ1本で歯肉炎が治るという事は、歯肉から出血する歯肉炎はプラークコントロールで改善するという事の証明です。白血病などの血液疾患や他の全身疾患は別です。
人を用いた歯肉炎の世界ではじめての研究は、1965年にハロルド レーエ先生等によって発表された論文「Experimental gingivitis in man」によって世界の臨床歯周治療学を一気に進歩させました。下記の論文をお読みください。
LÖ H. Theilade E & Jensen SB : Experimental gingivitis in man. J Clin Periodontol.36:177-187.1965. Loe H. Theilade E & Jensen SB : Experimental gingivitis in man. J Clin Periodontol.36:177-187.1965.
歯周治療は、なんといっても「プラークコントロール」なのです。この結果から推測すれば、各種うがい薬や歯磨き粉はそんなに歯肉炎治癒に影響しないのではないでしょうか。
歯周治療に関する多数の市販薬剤・抗菌剤の使用はあくまでも補助療法と考え、歯肉炎の治療に直接影響するのはやはりプラークコントロールでしょう。皆さんが毎日歯磨きをしているにもかかわらず歯肉から血が出るという事は、自分の歯や歯肉が健康になる歯磨きできていないという事です。レーエ先生の論文から逆算すれば 出血する歯肉は10日前後その場所に歯ブラシが当たっていない事を意味します。当院では歯肉の出血を止める歯磨き方法をお教えしています。正しい歯磨きはエチケットのためだけではなく、治療行為としての十分なプラークコントロールなのです。
糖尿病と歯周治療
歯磨きで糖尿病は良くなるの?
~歯周病専門医が糖尿病患者にできること~
私の考えですので、賛否はありますでしょうが、患者さんの為になる歯科医療としては良い所を突いていると思います。しかし、この答えを出す確実な論文が果たして多数あるのでしょうか?
以下は歯周病に関する2016年日本糖尿病学会のガイドラインです。
■ 糖尿病診療ガイドライン 2016 (日本糖尿病学会編集)では
- 糖尿病は歯周病の発症や進行に影響を及ぼすか?
- 2型糖尿病患者では、HbA1c 6.5%以上になると、歯周炎の発症や、歯槽骨吸収の進行のリスクが高まる。
- 糖尿病治療は歯周病の改善に有効か?
- 糖尿病治療により歯周組織の炎症は改善することがある。(推奨グレード B)
- 歯周病は血糖のコントロールに影響するか?
- 歯周病は、慢性炎症として血糖コントロールに悪影響を及ぼすことが疫学的に示されている。
※ 歯周炎の重症度が高いほど血糖コントロールが困難になる。 - 歯周治療は血糖コントロールの改善に有効か?
- 2型糖尿病では歯周治療により血糖が改善する可能性があり、推奨される。(推奨グレード B)
以上のように、2型糖尿病において歯周治療により血糖値が改善される可能性があるので、推薦グレードBとなっている。
- 糖尿病はインスリンの作用不足で、持続的に血糖値が高くなる病気
※ 歯周病は細菌による歯肉の炎症で、糖尿病とは別の病気だが両者は互いに影響している事が判って来ています。 - HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)が6.5%を超えたら糖尿病、空腹時に血糖値が125mg/dl以上となると、糖尿病と判定されます。
- 歯周病治療でHbA1cが0.4~0.8%低下したという論文もあります。
- 重度の歯周病だと歯周病治療で、一気に2~3%もHbA1cが落ちる事もあります。
※ これだけHbA1cを落とす事は大変困難で、糖尿病の薬1種類でもせいぜい0.8%位しか下がりません。 - 歯周病の治りが悪いケースには、糖尿病が潜んでいる事があります。糖尿病が悪化すると抵抗力が落ち、歯周病が悪化します。
- 糖尿病の3大合併症は、神経・視力・腎臓などの非常に細い血管に起こります。ー歯周病も歯茎の細い血管の病です。故に、歯肉の状態は全身の細い血管の状態を表しています。
- 歯や口の病を放置すると細菌が全身に広がり「身体の病」となります。
- 歯を抜歯する時は血糖値200mg/dlの状態が望ましい。高い時は無理しない。ストレスで血糖値が上がる事があります。
※血糖値が高ければ敗血症の頻度も上がりますので、細菌性の心内膜炎に注意する必要があります。しかし、糖尿病患者において、口腔に由来する敗血症の発生リスクが健常者と比べて高くなるという根拠のある論文は見当たらないのが現在です。(論文に寄る) - 歯科診療室では「簡易血糖測定器」で血糖値を計ります。食事の時間に関係なく、測定値(随時血糖値という)が200mg/dl以上で糖尿病と判定します。論文に寄ると、歯科医院に通院の歯周病患者の25%が糖尿病と判定されました。
- この25%の人は糖尿病の自覚がなく、糖尿病と言われた事がありませんでした。これを「隠れ糖尿病」といいます。この状態は、東洋医学では「未病」といいます。
- 「糖尿病専門医」には糖尿病になった患者しか来ません。その前にアプローチ出来るのは、歯周病治療している歯科医しかないのではないでしょうか?歯周病患者の「簡易血糖」を測定し、糖尿病になる事を未然に防ぐのが歯周病専門医の仕事の一つです。
- 食事を摂る時間によっても血糖値の違いがあります。夜7時にラーメンと焼き肉定食を食べると、翌朝の血糖値は90mg/dlです。夜食に同じものを食べると、エネルギーが消費されないので、翌朝は136mg/dlでした。しかし、夜少し歩くだけで血糖値は下がります。
- 野菜をはじめに食べてからご飯や肉を食べると、後から食べるご飯の消化を遅らせます。そのため血糖値の上昇を押さえることができます。
※歯が悪いと野菜が十分に咬めません。食べ物は丸呑みです。これは急激に血糖値を上昇させる毎日の食事です。歯を治さなければなりません。 - 血糖値を急激に上げないようにゆっくり食べるには、一口食べるごとに、なるべく箸を置く習慣を付ける事です。
- 3度食事をする度に、血糖値をコントロールする為、膵臓からインスリンが出され、その度に膵臓が働きます。間食をし続けると、その度ごとに膵臓は働き、この状態が続くと膵臓は疲れてインスリンが出なくなります。――糖尿病の発生です。
※この仕組みはどこかで聞いた事ありませんか?そうです。虫歯予防にはエナメル質脱灰pH5.5に下げないように、間食を抑制するのと同じことです。糖尿病予防は虫歯予防とも関連があり、歯周病の治療や予防とも関連があるのです。
当院のスタッフの皆様はよく知っておいてください。
かくして、死に至る糖尿予防は歯科医院から始まります。お医者さんからではないのです。
——この事を世間で認識されるには時間がかかるでしょうが、歯科から本筋の医療のお手伝いを、患者さんに行っていくのを本年の目標としたいと思います。
※ 論文ではHbA1cが6.4%で、ほぼ糖尿病の人が歯周病を治療すると、正常値の5.6%になる可能性があります。
歯科医院は健康づくりの場所なのです。
歯磨きしすぎて歯肉を傷つけ、痛めているあなたへ!!
迷信的な歯磨き治療の注意
歯周治療は歯周病の原因菌が存在している歯垢(デンタルプラーク)を可能な限り除去することが治療の基本ですが、歯周病治療・歯肉炎の治療として、100%歯磨きでプラークを除去することは不可能ですし、無意味なことです。
歯周病は、歯周病菌と歯肉の細菌に対する免疫力との力関係が崩れると発生するのです。
歯周病菌も含めた口腔内の常在菌は本来、歯肉ならびに口腔粘膜の健康にとって、大切な細菌であるわけです。
その歯周病菌を完全に取り除くように頑張るのではなく、歯周病菌の細菌叢(プラーク)と歯肉の健康がバランス取れて、口腔内で存在できるレベルでのプラークコントロールを行うのがちょうどいいのです。
つまり、歯周病菌がいても、歯周病を治癒することができるわけです。
健康な歯肉にも歯周病菌は検出されるわけですから、歯周病菌の検査で歯周病菌が見つかったとしても、だからどうしたと言うのでしょう。
それは歯周病の存在を示しているだけで、治療方法の指針にはなり得ません。
患者さんから聞くと、歯周病菌の検査料は結構高いですね。
「プラークを赤く染色して50%だから歯周病になる」とか、「11%だから歯周病にならない」とかの議論は、無意味なわけです。
PLI10%でも、歯肉のBOP(+)の改善がなければ、歯磨き指導の効果はないわけです。
赤染してプラークがたくさんついていても、BOP(-)の人に過剰な歯磨き指導は必要ないのです。
どのレベルでの歯磨き指導が必要なのかは、ポケットデプスや PLIではなく、Breedinng on Probing(BOP)の状態も見て行われるわけです。決して PLIでは無いわけです。
ではそのような基本的な歯肉の検査、ならびに歯ブラシ指導はどこで教えてくれるのでしょうか?
岡村歯科では当然行なっていますよ!!